生理不順とは月経周期と月経量、月経血の質、月経期間の異常です。
月経(生理)の始まった日から次の月経の始まる日の前の日までを、月経周期と言います。
月経周期の異常
- 月経先期:
- 月経周期がいつも25日以内というように異常に短いもの
- 月経後期:
- 月経周期がいつも36日以上に1度というように周期が長いもの
- 月経前後不定期:
- 月経周期がばらばらで月経先期と月経後期を繰り返す場合などに相当します
月経先期(月経が頻発する)が長い間続くと、貧血になったりします。中には、月経後期と月経先期を繰り返す人もいます。これらの多くは、西洋医学的にはエストロゲンと黄体ホルモンのバランス異常が原因とされています。
月経量の異常
- 過多月経:
- 月経周期は正常で経血量が異常に多いもの
- 過少月経:
- 月経周期は正常で経血量が異常に少ないもの
月経期間の異常
- 経期延長:
- 生理の期間が7日以上、重症の場合は半月も生理が続く場合
月経周期は基本的に正常
生理不順にたいする漢方治療
月経先期
中医学的には気虚による摂血不能(血液を血管内にとどめておく力の低下)と血分に熱があることが原因と二つに大別して考えます。後者はさらに、実熱、肝鬱化火、陰虚火旺などに弁証(診断)していきます。

動悸 不眠 倦怠感 月経先期から回復した38歳女性の場合
38歳のITベンチャー系企業に働くD子さんは、ここ数年、動悸、不眠、倦怠感などで悩んでいましたが、朝目が覚めると毎日口の中にうっすらと出血しているのに気がつき、はじめは歯科医院を受診したところ、軽い歯周病があるといわれブラッシング指導を受けましたが一向に出血が止まりません。心配になって内科医院を受診、胸部レントゲン検査、血液検査などを受けましたが、特に異常が無いとのことで、動悸 不眠が続いていたために軽い自律神経失調症と診断され、睡眠導入剤を処方されました。これらの症状とほぼ時期を同じくして、生理が予定よりも早く来るようになって、3ヶ月以上続いたので、婦人科を受診、出血傾向の検査もスメアテストも超音波検査でも、婦人科的には特に問題がないといわれ安心していたのですが、生理の量も多くなってきて、倦怠感も増強してきたために心配になり漢方相談となりました。顔色はやや白く、生理の量はやや多く、色はやや薄い印象とのこと、血液の塊などはなく、最近軟便傾向で、排便時に肛門の下垂感があるとのこと、舌診では舌質は淡紅色 舌苔は正常 脈は弱く、中医学での細弱の状態でした。夕刻になると疲れて話をしたくなくなるとおっしゃっていました。典型的な気虚不能摂血、中気下陥、やや心脾両虚気味と判断して、補中益気湯 帰脾湯合方加減 仙鹤草(せんかくそう)加味を2週間分煎じて服用していただきました。再診時には動悸 不眠 倦怠感が消失、同処方で更に2週間後には生理は正常に来たとのこと。現在は黄耆(おうぎ)のみ煎じて服用していただいておりますが、見違えるほど元気な毎日を過ごされています。原因不明の口内出血も再発は認められません。
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月経後期
中医学では血分の寒証、血虚による来源不足、肝鬱気滞による衝任脈の血行障害に大別して弁証します。さらに血分の寒証は実寒証と陽虚陰盛の虚寒証に弁証をすすめます。過少月経を伴う場合は生理が止まってしまう閉経に進行する可能性があるので注意が必要です。

生理が来ない、手足の冷えが二陳湯 温経湯で消失した30歳の場合
結婚してから数年、最近体重が10kgほど急に増加し、生理不順がひどく生理は3ヶ月に一度程度しか無く、足の冷えが強く、全身的にむくみっぽい30歳のB子さんの場合です。薬局の薬剤師に相談に行ったところ水太りだといわれ、防己黄耆湯を勧められましたが2ヶ月ほど服用しても生理が順調にならず、手足の冷えも改善しないたことと、そろそろ妊娠も希望しているために漢方相談となりました。B子さんの特徴として、舌質がぼてっとして厚く、苔が厚く、歯痕が強く認められました。時々胸苦しい感じや喉の詰まった感じや悶々とする頭痛もありました。脈象は滑やや遅でした。寒湿が原因の痰湿内阻衝任気机運行不利と弁証して、行湿燥痰温経調経を治療の基本として、二陳湯 温経湯合方加減にて治療を開始しました。同時に冷飲食の禁止、特に大好きなアイスコーヒー、果物の過食、アイスクリームを慎んでもらいました。服用してから2週間ほどで、胸の気分が軽くなったとのこと。烏薬 厚朴 木香を追加して2週間で、全身がスキッとしたとのことで足の冷えも我慢できるところまで改善。頭重感も消失。その後生理が順調に来るようになり、現在は脾胃を強める意味で香砂六君子湯加減によって経過観察中です。
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月経前後不定期
中医学では肝気鬱滞、腎陰虚、肝腎陰虚、気血両虚、腎精不足などから弁証をすすめて治療していきます。広い意味で月経を正常に戻し正常月経を維持していく月経周期療法の対象となります。

月経周期がばらばら、生理量が極端に少ない34歳C子さんの場合
以前から月経周期が不定で生理が来ても量が少ない傾向にあったのですが、2ヶ月前から量が激減しほんの数滴程度で生理が終わってしまうようになり 倦怠感があり、寝汗も心配の種でした。同時に目の乾燥感や痛みを感じて近くの内科医院を受診、胸部レントゲン検査で結核などの感染症は否定されました。血液検査では軽度の鉄欠乏性貧血があるほかは膠原病などの検査も陰性で、経口鉄剤を処方されました。婦人科も受診、子宮の発育不全はないとのことで基礎体温表を作成中でしたが、心配になって漢方相談においでになりました。喉の渇きと痛みがあり、眼球結膜はやや発赤があり、ニキビとフケ症、めまい 動悸を自覚するとのことでした。月経量は少なく、血塊が混じることがあるとのことでしたが、舌診では目だった瘀斑などは認められませんでした。舌質はやや赤く、舌苔は少なく、脈象は細弱でした。口干咽痛 寝汗を陰虚証であり、津液不足が基本にあり、津血同源の中医理論から血虚津虧と弁証しました。目の乾燥感痛み めまいなどから肝陰不足(肝血不足)も合併していることが予想されました。動悸は心血不足、ニキビ フケ症は血虚 血燥 虚熱の影響も予想されました。一般的には陰虚火旺の場合月経先期になることが多いのですが、病程が長くなったために最近ではむしろ月経後期に変化してきたのではないかと本人に確認したところ以前は月経先期 現在は月経後期であることが確認されました。厳密な意味での月経不定期の症例ではありませんでしたが、興味ある経過をたどった症例でした。肝腎陰血不足、血虚生熱の弁証の下に、一貫煎(いっかんせん) 四物湯合方加減にて治療を開始しました。経過中に補肝腎の菟絲子や 遠志 丹参 香附子などを加減しました。治療開始後2ヶ月で生理量は多くなり、ニキビやフケ症まで改善傾向が出現したと喜ばれました。現在は伝青主女科定経湯(じょうけいとう)加減にて順調な経過を示しています。
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過多月経
中医学では気虚(脾不統血)、血熱妄行型、血淤型などに弁証を進めます。頻度は少ないですが陰虚火旺型、一部肝経湿熱型があります。とにかく、生理の量が異常に多い場合は、子宮筋腫、子宮粘膜下腫瘍などの器質性の疾患があるかどうか、血液疾患などで出血傾向があるかどうかなどの精密な検査が必要です。

月経過多の上海の症例
上海で経験した症例を紹介します。患者さんは45歳の安徽省(あんきしょう)の主婦です。月経過多と肥満を主訴としてご主人と一緒に来院されました。中国の外来では医師と患者さんは一般的には1対1で密室で診察することはありません。周囲には順番を待つ他の患者さんが多数取り囲んで、会話はそのまま筒抜けで、はじめは日本の習慣になじんでいた私にとってはとても違和感がありました。会話は上海語ですので北京普通語の私にとっては理解しにくいところもあったのですが医師と患者の会話を再現してみます。
- 医師
- 「性格は怒りっぽいかね」
- ご主人
- 「ああ、ひどいもんだよ」
- 医師
- 「あなたに尋ねているんじゃないの」
- 患者
- 「腹がたつことばかりで」
- 医師
- 「小便と大便の具合は?」
- 患者
- 「大便は鞕い、3日に一度」「小便するとき熱く感じる」
- 医師
- 「下は痒いかね?」
- 患者
- 「痒くて毎日掻いている」
- 医師
- 「おりものは?」
- 患者
- 「多いかな 黄色」
- 医師
- 「匂いは」
- 患者
- 「少し臭い」
- 医師
- 「血の塊は混じるかね」
- 患者
- 「はい」
ここで患者は自分のカルテと他院からの紹介状を医師に渡しました。
中国では外来カルテは患者自身が管理していのが日本と大きく異なるところです。驚くことに人民軍病院でのCT写真のコピーや血液検査の結果、スメアテスト、培養検査の結果を持参してきました。医師はさっと目を通して、脈診、舌診を行い始めました。私はCT写真をまじまじと見ましたが特に異常はありませんでした。カンジダ、トリコモナスやクラミジアも陰性でした。
医師は基本的には竜胆潟肝湯(りゅうたんしゃがんとう)に炒地榆、炒槐花、茜草を加えた処方をしました。達筆すぎて日本人の私にはなかなか判別しにくい部分もありましたが、肝経湿熱下注 衝任脈血熱妄行の弁証でありました。遠方よりの患者さんであったので1月分の処方がされました。再診時には諸証はことごとく消失しておりました。ただし肥満はそのままでした。
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過少月経
中医学的には血虚、腎精不足、肝腎陰虚、瘀血、痰湿阻滞などの弁証を進めていきます。瘀血が原因の場合は、血熱、血寒、気滞などに弁証を進めていきます。血熱は実熱、虚熱へ、血寒は実寒と虚寒へと弁証を進めますが、症例によっては腎精不足に腎陽不足が合併、さらに虚寒性の血淤証の合併など一様ではありません。

過少月経が腎気丸と二至丸で改善した32歳D子さんの例
D子さんは4年前初回妊娠4ヶ月で人工流産、子宮内膜ソウハ術に後で生理の量が極端に少なくなったことと、再発性膀胱炎を主訴に漢方相談においでになりました。その後妊娠することなく不妊外来受診中とのことでしたが、腰痛や下肢のだるさもあり、基礎体温表を拝見しますと、低温相が長く、高温期の体温上昇も十分でありませんでした。中医学的には低温期の陰血不足が考えられました。腰痛や下肢のだるさなどは腎虚(腎精不足)の証です。月経血が少ないということは「血海」が充満しないことであり、腎虚血虚の状態です。再発性膀胱炎は陰虚内熱の影響と考えられます。腎精不足と弁証し、補腎養血調経を基本に、景岳全書 腎気丸を主体に治療を開始しました。山茱萸、杜仲、菟絲子の量をやや多めに使用し、低温期に滋陰目的で二至丸(にしがん)を併用する方法を採用しました。後に周期療法へ移行しましたが、治療開始後、特に西洋医学的な治療をすることなく、月経量は正常化し、6月後には妊娠することになりました。
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経期延長
月経がだらだら続く経期延長では、比較的多いタイプは気虚不能摂血型(痰湿を伴う場合もあります)次に血淤型(瘀血型)と肝腎陰虚型に虚火を伴う場合などです。具体的には症例を参考にしてください。

だらだらと止まらない生理とニキビが改善した22歳E子さんの例
E子さんは、ここ3ヶ月ほどの間、1週間の生理2~3日後に少量の出血が1週間から2週間位だらだらと続くようになり、病院の婦人科で検査を受けたところ特に異常は見られないが、やや貧血ぎみだといわれました。
生理に血の塊が混じるがあります。生理痛もあるとのことで漢方相談となりました。ニキビがあり、頭髪の痒みも同時にあるとのことでした。
中医学では「女性は肝を以って先天と為す」と言い、肝の働きと生理現象は密接な関係にあります。
また中医五行学説では腎は水であり肝は木であるとされ、両者は親子(相生)の関係にあり、腎精と腎気の充実により「肝は血を蔵す」とされます。
婦人の生理は衝脉・任脉の充実によって順調に営まれますが、この二脉をつかさどるのが肝と腎です。
E子さんの月経がだらだら続く経期延長と生理痛は「肝の藏血」と「肝の疎泄」の失調を意味します。さらにニキビや頭皮頭髪の痒みは陰虚火旺による虚熱が関係していると思われます。したがって、肝腎陰虚 衝任伏熱という弁証になりました。また血塊などから瘀血を挟む状態であると判断されます。治療の原則は滋水涵木(陰である水を増やして木である肝を養うという中医学の治療原則)、養陰清虚熱、活血止血調経(陰を増やし虚火を抑え衝任伏熱を除き、血液の凝固を抑え止血し、正常な生理に戻す中医学の治療原則)となります。清熱養陰湯、両地湯、二至丸 合方加減により治療を開始して2ヶ月後には、生理期間が5日程度に短縮、その後のだらだら出血も消失しました。その後2ヶ月ほど薬剤を減量して、現在は休薬していますが、再発はありません。